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東京地方裁判所 平成12年(ワ)13719号 判決

原告 株式会社ナイガイハウジング

右代表者代表取締役 清水廣美

右訴訟代理人弁護士 氏原洋介

被告 株式会社群馬プレスカントリークラブ

右代表者代表取締役 宮下一東洋

右訴訟代理人弁護士 蓮見和也

主文

一  被告は、原告に対し、原告からプレスカントリークラブ預り金証書(B第〇〇一四四号)の交付を受けるのと引換えに、金一三〇〇万円及びこれに対する平成一二年七月九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は原告に対し、金一三〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一二年七月九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行宣言

第二事案の概要

本件は、被告の経営するゴルフクラブの正会員である原告が、被告に対し、入会時に被告に預託した正会員資格保証金につき、据置期間が経過したとして、預託金返還請求権に基づき、右預託金一三〇〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。

一  争いのない事実等(証拠の記載のない事実は当事者間に争いがない。)

1  原告は、不動産の売買、賃貸借、仲介及び管理等を主たる目的とする株式会社であり、被告は、プレスカントリークラブ(以下「本件ゴルフクラブ」という。)を経営する株式会社である(弁論の全趣旨)。

2  原告は、平成二年一月一七日、正会員資格保証金として金一三〇〇万円を被告に預託し(以下「本件預託金」という。)、被告の経営する本件ゴルフクラブに入会し、被告から同日付けの預り金証書(B第〇〇一四四号、甲一)の交付を受けた。

3  本件ゴルフクラブの会則(以下「本件会則」という。)には、第一四条1において、「入会保証金は、預り金証書発行の日から一〇年間据置き、その後は会員の申出により預り金証書と引換えに入会保証金を返還しなければならない。」旨規定されており、さらに、第一五条においては「会社(被告)は天災地変その他不可抗力或は、会社の経営、クラブの運営を著しく阻害する恐れのあるときは理事会と協議して据置期間を延長することができる。」旨規定されている(甲二)。

4  被告は、時下の深刻な経済危機の中で預託金の返還を実施することは「会社の経営、クラブの運営を著しく阻害する恐れのあるとき」に該当すると判断し、平成一一年二月二七日及び同年六月二七日開催の理事会と協議し、その承認を得た上で、同年七月三日、全会員の入会保証金の据置期間を一律に平成二一年一二月二五日まで延長することを決定した(弁論の全趣旨)。

二  争点

1  本件会則による預託金の据置期間延長決議の効力

【被告の主張】

本件ゴルフクラブの預託金の据置期間は、本件会則第一五条に基づき平成二一年一二月二五日まで延長されたので、本件預託金返還請求権の履行期は未だ到来していない。

原告は、本件会則を承認して本件ゴルフクラブに入会したのであるから、本件会則による預託金の据置期間延長の決議を甘受せざるを得ない。そして、被告が行った据置期間の延長手続は、右会則の要件を充足しているから預託金据置期間延長決議(以下「本件決議」という。)は有効であり、原告を拘束するものである。

【原告の主張】

被告による一方的な預託金の据置期間の延長は無効であり、原告を拘束するものではない。

2  同時履行の抗弁権の成否

【被告の主張】

本件会則には預託金は預り金証書と引換えに返還する旨規定されているから、被告には同時履行の抗弁権が存する。

【原告の主張】

同時履行の抗弁権の制度趣旨は、衡平の原則によるものであるから、当事者の一方が債務を履行しない意思を明確にした場合には、その相手方が自己の債務の弁済の提供をしなくても、他方は、同時履行の抗弁権を主張できなくなるものと解すべきである。

被告は、原告に対し、その債務を履行しない意思を明確にしていることから、信義則上同時履行の抗弁権を主張し得ない。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  前記争いのない事実等及び証拠(甲二)並びに弁論の全趣旨によれば、本件ゴルフクラブは、いわゆる預託金会員制の組織であり、本件会則は、これを承認して入会した会員と被告の間の権利義務の内容を構成するものということができ、会員は、本件会則に従って、年会費納入等の義務を負担する一方で、本件ゴルフクラブのゴルフ場を優先的に利用する権利及び会則に定めた一〇年間という預託金据置期間経過後には、預託金の返還請求をすることができる権利を有することが認められる。

ところで、右会則に定める据置期間経過後に預託金の返還を求めうる権利は、会員の契約上の基本的な権利であって、本件会則に定める据置期間を延長することは、会員の契約上の権利を不利益に変更することに他ならないから、会員の個別的な承諾を得ることが必要であり、個別的な承諾をしていない会員に対しては据置期間の延長の効力を主張することができないものと解すべきである。

2  被告は、本件会則自体に据置期間の延長に関する具体的な規定(第一五条)が存し、原告がこれを承認して入会したのであるから、これに拘束されるところ、被告において、右規定に定める要件を充足して延長決議を行っているから預託金据置期間延長決議は有効である旨主張する。

確かに、本件会則第一五条には、「会社の経営、クラブの運営を著しく阻害する恐れのあるときは理事会と協議して」預託金の据置期間を延長することができる旨定められている。しかしながら、原告を含む本件ゴルフクラブの会員が、入会の際、自己の契約上の基本的権利に、将来重大な変更を伴う改正を行うことまでをも無条件に許容していたとまでは認めることはできず、また、右の要件は極めて抽象的であるから、会員の基本的かつ重要な権利である高額な預託金の返還請求を一時的にでも制限することが是認されるためには、「天災地変その他不可抗力」に準ずる程度のもので、かつ、合理的な事情が存在し、延長決定の手続が適正に行われるなど据置期間の延長措置自体に正当性が必要であるというべきである。

3  これを本件についてみると、証拠(乙一ないし二二)及び弁論の全趣旨によれば、被告においては、預託金据置期間の延長は会員の重要な権利の制限であるとの認識の下に、理事の選出等から始め理事会の民主的運営を心がけ、会員に対する状況説明を十分行うとともに、会員からの提案を可能な限り反映させる努力をした末、据置期間延長の代償措置をまとめ上げ、会員の多数の賛同を得るなど、慎重な手続を経て預託金据置期間延長決議を行ったことが認められ、その意味では被告においても相応の努力・工夫を重ねたことが窺われるのであるが、それでもなお、<1>据置期間の延長期間がさらに一〇年間と長いこと、<2>延長後の平成二一年一二月二五日には各会員の据置期間が一斉に満了すること、<3>したがって、その時に預託金の返還希望の会員のすべてに返還に応じることができるという具体的保証が存しないことなどの諸点に照らせば、右延長決議に賛同した会員に対してはともかく、それに賛同しない個々の会員の預託金の返還請求権を制限することまではできないものというべきである。

したがって、本件決議をもって、原告に預託金据置期間が延長されたことを主張することはできないものといわざるを得ない。そうすると、原告の預託金返還請求権は、本件預り金証書の発行の日である平成二年一月一七日から一〇年間を経過した平成一二年一月一七日に履行期が到来しているものと認められる。

二  争点2について

1  本件会則第一四条1には、「預り金証書と引換えに入会保証金を返還」する旨定められていることから、原告は、右規定により、本件預託金の返還を受けるためには、預り金証書を提出することを要することとなる。

原告は、被告が、自らの債務を履行しない意思を明確にしていることから、信義則上同時履行の抗弁権を主張し得ない旨主張する。しかし、被告は、債務の存在自体を否認しているのではなく、履行期の到来の有無を争っているに過ぎず、かつ、前記認定の事情の下では、被告が履行期の到来につき争うことが著しく信義に反するとまでは認められないことから、被告が訴訟前に任意の履行を拒否していたからといって、それをもって直ちに同時履行の抗弁権を行使することが信義則上許されないものということはできない。

他方、預り金証書は、その性質上有価証券(受戻証券)ではなく、したがって、証書の交付と本件預託金の支払とは対価的な関係にあるわけではなく、本来、被告が預託金の返還債務を完全に履行した後に返還を請求しうる性質のものであるところ、本件会則の規定により、特に預託金の返還と預り金証書の交付とが同時履行とされたものに過ぎないから、原告が、預り金証書を所持し(甲一)、何時でもこれを返還できる態勢にある(弁論の全趣旨)以上は、原告が被告に預託金の返還を請求することによって、遅滞の状態に陥るものというべきである。したがって、被告は、原告が本件預託金の返還請求をした本訴状送達の日の翌日である平成一二年七月九日から遅滞の責めを免れない。

三  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し、被告に本件預り金証書を交付するのと引換えに、本件預託金一三〇〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成一二年七月九日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 村岡寛)

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